作文「おかあさん」を読んだ
このブログは母の日に紹介するつもりであったが、先日30数年ぶりに会った2人の友人に私のブログを紹介しようと思うので、今回家庭的な話題をとりあげてみた。
以前、私が入院していた病院の5階から2階に下りてみると、患者や待合者用にと百冊程度の本が置かれてあった。PHP研究所の「小さいサムライたち」(吉岡たすく著/S49.10.15初版、S51.12.10第7刷)という、小学校の先生が子供たちの様子を記した冊子があった。他にも何冊か手にして部屋に戻り、読んでみた。
この中で、母の日にあたり先生と約束をした少女の作文があり、それを紹介したい。
ひらがなが多いことから3年生くらいと思われる。
しかし、冒頭のあいさつ文に
「わたしも、げんきです。ごあんしんください。」
とあるのは、この子は一体どういう子だろう、と少し驚いてしまう。
中盤を読み進むと、こどもらしい状況が続いていくのだが、
最後の2節で、何とも言えない心情に捕われ、余韻が残ったのである。
敢えて余分なことを言わせてもらうならば、
この作文は、そのまま小さな1冊の児童書になる価値がある。
今は五十に近い年齢になっていてどこかにお住まいになっているヨシコさん
私に力があるならば、本にしてあげたいです。
すてきな作文をありがとう。
「おかあさんありがとう」 ヨシコ
先生、こんにちは、おげんきですか。わたしも、げんきです。ごあんしんください。
あさ、目がさめました。
母の日です。
わたしは、先生とのやくそくを思い出しました。
それで、かおをあらって、おかあちゃんのとこへいきました。
いおうとしたら、よこにおとうちゃんがすわっていました。
おかあちゃんにいうて、おとうちゃんにいわなんだら、おとうちゃんが、きをわるくすると思って、いいませんでした。
あさごはんのときは、みんないっしょですから、はずかしくていえません。
おかあちゃんが、ひとりになったら、いおうと思って、おかあちゃんのうしろをついていきました。
そしたら、おかあちゃんが、
『うしろばっかりこんと、あっちへいけ』といいました。
ひるごはんのときも、だめです。
ひるから、おかあちゃんは、よそへいきました。
ばんごはんのときも、いえません。
それで、ねるときにいおうと思って、ねまきをきていました。
そしたら、やっぱりよこに、おとうちゃんがすわっていました。
わたしは、先生とのやくそくが、まもれませんでした。
それで、ねまにはいってから、
ふとんをあたまからかぶって、
だれにもきこえないような、
ちいさなこえで、
ひとりで、
『おかあちゃん、ありがとう』
といいました。
そしたら、
おかあちゃんのゆめをみました。
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奇跡の表情
何年か前に私が何日も入院していた時のこと、
妻がいつものように見舞いに来た。
話題を忘れたが人生的な何らかのこと話していたのだ。
ふと間近の妻の表情が何かを捕らえた。
一瞬まなざしが私の顔の宙を眺めていた。
この時の妻の顔は何という表情であったろう。
それは最も優れた写真家が捕らえた「人の表情」を超えていた。
この表情を描いた絶品の肖像画でも垣間見たかのような、
その顔の滋味たるや、
私の人生で初めて出会うその表情!!
忘れてならじ!!
忘れてはならない!!
強く刻印するように我が心に
記憶に命じたのである。
絵で描く事あたわず、
せめて感受できる言葉を書き残すしかなかった。
慈(いつく)しみ、
憐れみ、
励まし、
忍耐、
温もり、
信頼、
回想、
懐旧、
安寧、
悲しみ、
生真面目さ、
健気(けなげ)さ
受容
そして
何かに対する微かな覚悟だろうか
それらが一時に妻の顔に現われたのである
それを一尺ほどの至近距離で眺めた
だから微かな表情まで読めたのである
人の表情には「よい表情」というのがあろう
どのような容貌でも「よい表情」というものがあろう
しかし、あの時の妻の顔は
「よい表情」というものを超えていて、
私の心に刻んだ
慈悲の表情ではなかったか
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鈴木範裕展
平成21年4月16日
会社を定時で退け、知人の弟 鈴木範裕展を見に行った
有楽町駅から数分
小さな画廊
12,3点の作品
画風は至っておとなしく
空をバックにして見上げた木立あるいは林の葉を感ずる
こんなにも
目立たない中間色
あたかも音のない世界のように
日常の平安
私の知人には芸術を生業としている人がほとんどいないので、そのような人と芸術について話してみたいこともあり、期待して行ったが、あいにくご本人はおられなかった。
作品を見ながら思った。
鈴木範裕さんという人は
一体何を描いたのだろう
白い境界線を持つ絵画構造は
無聴覚の世界を感じた。
確かに絵画という芸術は音の要素は無い芸術だが
鈴木さんの絵には更に音が無い
騒音がないというべきか
いや、静寂という概念すら無いような世界だ
私は二三十分鈴木さんの絵画に耳を澄まして
作者の表したかったことを感じようと試みた
木立の葉たちとの一体感
そのような印象を抱いて私は画廊を出た。
そして「地上」に降り立った帰り道
地上を行き交う人々の顔・かお・顔
その顔の誰もが人生を映して味がある
私はなぜこのように特徴のある人々の群れの中にいるのだろう
私はまるで、性格俳優たちの群れに踏み込んでしまったかのように感じた。
特に、信号待ちをしている時に脇に座っていた中年の女性占い師の顔はどうだ
それは離れがたい味わいがあり、
私が肖像画家であればぜひ描いてみたい顔だったのである。
何度も振り返りながら信号を渡った。
私は気がついた
ああ
きっと
鈴木範裕氏の
作品をのぞいたからなのか
あの
静かな作品を読み込もうと
耳も
目も
そばだてたのだ
作者の思い入れを
感じ取ろうとしたのだ
芸術家とは、何という世界に棲んでいるのだろう
そう思うと共に
人間は何と認識に依存して生きているのだろう
そう思ったのである。
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飾り窓のある町
平成21年4月16日
有楽町の街に行った
飾り窓のある知らない街よ
いつか馬車に乗って
行きたい街よ
童謡「遠い町」を思い出す
二番の歌詞である
と思っていたが
異なっていた
1.
遠い山の向こうの 知らない町よ
いつか馬車に乗って 行きたい町よ
2.
飾り窓の店 あるという町
ポプラの並木の あるという町
3.
遠い雲の下の 知らない町よ
楽しいことが ありそうな町よ
題名は「遠くの町」であった
小学生の頃
この歌詞を見て
「馬車に乗って行く」
というところに
エキゾチックな新鮮さと
また
気品を感じていた
また
「飾り窓」とは
店のショーウインドウのことであると知って
素敵な表現だと今もって感心してしまう
未知の世界への憧れ
児童の持つ明るい素直な目
それらが渾然としていた
山の向こうに知らない町がある
これはすばらしいことである
この気持ちが
私の60年近い人生に
象徴的に
いつも流れていた
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かべたろう5 ( 家族 )
長女が小学生2年生のとき(「19年前の日記9」参照)、
出任せでリクエストした「かべたろう」のお話に、
出任せで話した話を展開する。
2007年9月19日「太郎」
2008年7月25日「おばばの野望」(続かべたろう)
2009年6月17日「鶴の少女」(かべたろう3)
2009年7月18日「安寿と太郎」(かべたろう4)
◆あんじゅの目に、太郎はあわてたと。
「出ていくことないで、お前ずっとこの家にいれば」
太郎はつい口走ってしまったと。
「え」
「おばばに頼んでみる」
「でも、家長のおじじは、決して許さないことでしょう」
「おばばが通れば家長はついてく」
「え? で、でもごめんなさい」
「え?」
「あたしずっとこの家にいることできないです。あたし帰るとこあるです」
「ええっ、さっき行くとこないって」
「行くとこないですが、帰るとこはあるんです。」
「えええっ??なんじゃそりゃ。」
「あたしは、かはいそうな鶴の化身です。助けてくれればいいことあります。」
太郎は茫然としたと。
そして、むすめが本当に鶴の化身かもしれないと思い始めていたと。
はっと我に帰って、太郎はいろいろ廻らしたと。
「な、なして? ーわ、わかた、おばばのおならが臭いからじゃ」
「いえ、まだ知りません」
「シリませんて、ヘー気で洒落なぞを・・」
「え?」
「んじゃ、おばばの化けたの見たからか?」
「おばば、お化け(敬語)になるんですか?」
「んだ、あのキリシタンから鏡もらってからというもの、
1週間に一度、顔に白いの塗ってぬって化けるんじゃ。
そのあとシワが浮き立ってそれは凄いもんじゃあ」
「いや、こわい。太郎さま。あ、あたしを脅かしてどうなさいます」
「なあーにを脅かしとる?」
おばばがぬっと顔を出したと。
「きゃあー」
思わず太郎に抱きついたと。
「たろ、あんまり脅かすと娘に嫌われっと」
「どっちが脅かしとると」
「ほれ、ええから娘、ここに拇印を押せ」
「は、はい」
言われるままに書類に押そうとするが朱肉がない。
ばばは娘の手を取ると、太郎の唇の傷の血に親指を付けて書類に押し付けさせたと。
「これでええ」
おばばは不吉そうに笑ったと。
太郎は恍惚になる暇なく、胸騒ぎを覚えて
「ばば、なんじゃ、それ」
「役場に届けるんじゃ。あんじゅは今日からうちの娘じゃ」
「「えええっ!!!」」(二人の驚き)
「んじゃ、行ってくるでの」
「ま、まて」
太郎はおばばに寄って小声で聞いたと。
「お、俺とあんじゅは兄妹になるんか」
「んだ」
「兄妹になるってことは、
その、
つまり、
あの・・」
「なんじゃ、はっきり言ええ。時間ねえが。」
「ケッ、ケッコンできないがの!」
太郎はケツアツを限界まで上げて、
鬼退治のために溜めた勇気を全て使い切って聞いたと。
「あ?」
「ダッ、ダから・・」
「お前、今ものすご勇気だしたろ。」
「うう」
「まったく、わしが結婚申し込まれたかと思ったで」
「どしてそんなありえない勘違いするが」
「お前も何か勘違いしとるんじゃないけ」
「へ?」
「こな届けする前からケッコン出来るわけないじゃろが」
「ええ!?な、なんでじゃ?」
「だいたい人間が宇宙人と結婚できると思うか?」
「ええっ!あ、あんじゅは宇宙人だったんか!」
太郎はおばばの観察眼に度肝を抜かれたと。
そういえば、あんじゅの未熟な言葉使いや空への飛翔願望、
不思議な白装束にいちいち合点することばかりだったと。
「あほう、宇宙人の訳なかろ。何考えてるんだか。」
ばばは吐き捨てるように言っと。
「え?」
「ええか、あんじゅはその宇宙人よりも、
もっと人間から離れたソンザイだっちゅうことだがね」
「ええっ、宇宙人よりも?」
「おまいが言ったが。」
「俺が?」
「鶴だべ」
翌日からあんじゅは家族だったと。
太郎は毎日が楽しくてしょうがなかったと。
子熊との勝負は互角になったと。
また、あんじゅが来てからずっと一日に1、2回、入り口に木の実や果物、魚が相変わらず置かれてたと。
「太郎さま、鶴亀算の時間です」
「亀が出てこないから亀ぬき鶴亀算じゃの」
「ああ、ごめんなさい。あたし亀さんのお友達いなくて・・」
「そんなことなら簡単じゃ。ここから2里半行けば浦島ガ浜に着く。
その浜で子供たちに遊ばれている亀を助けてやればイイコトアリマス。」
「ああ、太郎さま」
安寿ははみかむように笑ったと。
「お、笑った笑った」
太郎は初めて安寿を微笑ませたことで満足だったと。
「あたし、足治ったら連れてって下さい」
「おっしゃ、今でもおんぶして行けるで」
「え」
「い、いや、鶴亀いこう」
「はい、つるつる算ですね」
「おう」
「むかし或る所に可哀想な鶴さんが居ました。何故可哀想かというと・・」
「あれ、鶴亀算ってそうやって始まるんだっけ」
「そうです。前からそうです。太郎さま、鶴亀算なさったことないですか」
「えっ?えーっと。あんじゅ続けれ」
「むか〜しむかし、と〜ってもかはいそ〜なつるさんがおりました。
ど〜してかはいそ〜かとゆ〜と〜・・」
あんじゅはここまで話しが進むと声が震えてきて、ほとんど泣きそうになったと。
「ど、どうした」
「ごめんなさい、あたし鶴亀算やるとき、いつもクライマックスで泣きます。」
「鶴亀算にクライマックスなんかあるかい。一体どんな鶴亀算なんじゃ」
ままごとのような勉強中におばばがやってきたと。
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かべたろう4(安寿と太郎)
長女が小学生2年生のとき(「19年前の日記9」参照)、出任せリクエスト「かべたろう」のお話に、出任せで話した話を展開する。
2007年9月19日「太郎」
2008年7月25日「おばばの野望」(続かべたろう)
2009年6月17日「鶴の少女」(かべたろう3)
◆
ほうして寝る段になって、
娘は奥の部屋に、
太郎は入り口の土間に、
じじばばは囲炉裏の両脇に横になったと。
太郎はなかなか寝つけなかったんだと。
すると、暗闇の中で何かが動いてやってきたと。
「太郎さま、こわい。来てほしいです」
「だめじゃ。ばばが奥の間を絶対覗いちゃだめだと」
「やぶれ障子です」
「だから、いざと言うとき覗けるようになってて、普段はだめで・・」
「お化けがこわいです」
「迷信じゃ」
「あの機械が動き出しそうでこわいです」
「迷信だって。キリシタン・バテレンのノア爺さんがゆっとった。
海越え山越え西の果ての国では、ニフトンさんがそろそろりんごをネタに厳密科学をおっぱじめようとしとると、瓦版に書いとったと。世の中はもう科学時代に突入じゃて。」
「女の子相手にそんなこと信じさせるの無理あります、太郎さま。」
「とにかく迷信じゃ」
「あたしはかはいそうな鶴の化身です。助けてくれればいいこと・・」
「わかったわかった。」
太郎はつづけたとよ
「だけんども、お前のいうこときけば、明日おばばにひっぱたかれて、いいことないしのう」
「その時、あたしがはたかれます。」
娘は真顔で答えたと。
「あほぬかせ。冗談じゃ」
二人のひそひそ話をばあさんが寝床で黙って聞いていたと。
太郎は意を決して奥の間に入ったと。
ほして、娘から2尺程離れてわらの中にもぐりこんだと。
「これを掛けると温かいです」
娘は太郎に近づいて羽根をふわりとかけたと。
すると温かかったと。
しばらくしてから太郎が言ったと。
「おら、夕んべみんなして晩飯食ったときくれえ楽しいことなかったて」
「あたしも生まれて一番楽しかったです、太郎さま。」
「<さま>は止めてくれ。そいえばお前名前は何てんだ」
「・・・あんじゅ」
「<あんじゅ>? あんこのまんじゅうみたいじゃな。」
「ごめんなさい」
「あのその、ほれ、謝ることないで。うまそな名前だって、ほめてんじゃ。」
娘はもうすーすー寝息をたてて眠っていたんだと。
太郎は娘の指先を右腕に感じながら、何だか幸せな気持ちで眠ったんだと。
朝起きると、何だか世の中騒がしい。
「何じゃ、どうしたんじゃ。爺」
「大変もないことが起こったんじゃ」
「そら何じゃ」
「とんだことじゃ」
「うんだ、とんでもないことじゃあ」
「大変なことだてや」
近所のものも脇から盛んにまくしたてとると。
「だから何じゃと聞いとる」
「いかっ、聞いいて驚くなああっってっ!!!」
左官屋のせがれも朝っぱらから、いつも以上にえらいハイテンションで鼻水たらしていたと。
「なんか鳴りもの入りじゃのう。」
「と、殿ン様んとこのなあっ!!!」
「鼻水とばすなってば」
「ひ、姫さまがいなくなったじゃー!!!!」
「あいやー、青ばな黄ばな・・」
「そ、それだけじゃなかっっ。じゅるるん」
「きったねえ」
「姫さま見つけた者には、ひゃ百両くれるとよっっ!!!!ずるん」
「鼻水かまんかい」
「な、なんじゃあ、その反応は。上品に構えてからに」
「別に」
「おめえなー」
左官屋のせがれが、不服そうに太郎の右腕をつかんだと。
「右腕ばつかむなて」
「な、なんじゃ。」
「つまらん。みんな騒ぎすぎじゃ。今日は忙しいんじゃ。」
そう言うと太郎は、家の中にひっこんだと。
「太郎さま、朝ご飯です」
太郎は一生こんな暮らしができることを心の底から願ったと。
「<さま>はやめれって・・」言いかけて太郎はたまげたと。
「どしたん、この飯は」
「あ?おめえじゃねえのか?
今朝早く土間に栗やら木の実やら魚なんぞ置いたのは」
ばばがゆったと。
「知らんぞ」
「じゃ誰が持ってきたん?」
3人は顔を見合わせたと。
娘がひとり、囲炉裏にすわっていたと。
「じじ、たろ、最近きつねとかを助けたことないけ」
「うんにゃ」
「地蔵さまに笠つけてやったとか」
「うんにゃ」
「おかしいのう」
「???」
ばばが向こう行った所でじじに聞いたと。
「ばばは何でいつもあんなへんてこな質問をするが?」
「ばばは、ああ見えても若い時分は文学少女だったんじゃ。」
「ええっ!!」
「ちなみに、わしは科学少年じゃった」
「はいやー」
「むかし或るところで、カチカチ山読んでるめんこい女の子に出会っての・・・」
「誰もなれそめ聞いとらん」
「最後まで言わせろ」
「と、トイレが呼んどるっ」
「こんな豪華な朝飯初めてじゃ」
「むすめ、おめえ誰が置いたか見とらんか」
「そんなことより、太郎、お前どこで寝とった」
「え、あ」
あんじゅを見ると、目を伏せてぷるぷるしてたと。
「あの、あの機械が夜中にひとりでに動き出しそうだとか・・」
太郎が言うと、爺さんひざをポンとたたき
「やっぱりそうじゃ!
壊れた機械と思うていたが、自動修復機能がついていたんじゃ!
豊田んちの親父、なかなかやるのう。
21世紀の未来技術を先取りしとるのう!」
爺さんが心底感心したように言ったと。
「んで動いたんか」
「うんにゃ」
「ああっ??? なんじゃあ、豊田んちの親父も地に落ちたのう。
動かねえんじゃ、前世紀の馬の骨と変わらんがね。」
「評価の振幅が大きすぎるって」
「あ、あの機械、夜中にほんとに動き出しそうなんです。」
「え!」
「そ、それで夜中には太郎さまにそばにいてほしいです」
「夜中に太郎がいてどする」
爺さんが聞いたと。
「あたし夜、目が弱いんです」
「そうか夜はメカ弱いんか」
「太郎が強そうにはとうてい思えんがに」
ばばが言ったと。
「大丈夫です。あたし鶴亀算得意なので、昼間たろうさまに教えてあげられます。
そうすれば太郎さま理系になりまする。」
「なるほど」
とおばば。
「どこがなるほどじゃあ!鶴亀算で理系になれれば、カチカチ山読めば小説家になっとる!」
爺がわめいたと。
「お、そか、わし慌てて昔話小説家としてデビューせないば・・」
「いや、そうじゃのうて・・」
「あんじゅ、すごいじゃのう、鶴亀算得意なん」
「メカには弱いがカメには強いわけじゃな」
爺さんが駄洒落の誘惑にマケながら言ったと。
「いえ、亀さんが出てくると急にムツカしいです」
「え」
「あの、あたし亀さんの暮らしぶり知らないので・・。
デ、でも、ダイジョウブデス、鶴だけでもガンバれば理系に・・」
「うーん、とにかく俺理系目指すから、夜中あの化け物が動くときに退治できるように、あんじゅを守れるように、奥の間に隠れ住むように・・・」
「お前声がうわずっとるぞ」
「<あんじゅ>って娘の名前か」
「うんだ」
太郎はやっと言ったと。
「あんこのまんじゅうみたいだのう」
「すみません。」
「奥の間で<化け物退治>ちゅうのはなんじゃい」
爺がつぶやくと、ばばが
「なに、あれは壊れた機械を直すことのブンガク的表現に決まってるて」
と優越感の眼(まなこ)を爺に向けて説明したと。
とにかく、ようわからんが太郎が奥の間であんじゅを機械から守るために夜は見張ることになったと。
「あんじゅ、俺の代わりにおばばからひっぱたかれるんじゃなかったんか」
太郎はからかってみたと。
「ごめんなさい。おばばさまお化けより怖くて体が動かなかったです。
次きっとがんばってはたかれますから。
追い出さないで下さい。行くとこないんです。」
あんじゅの瞳は必死じゃった。
(つづく)
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かべたろう3
長女が小学生2年生のとき(「19年前の日記9」参照)、出任せリクエスト「かべたろう」のお話に、出任せで話した話の続々編
◆◆◆
2007年9月19日 太郎の出生話
2008年7月25日 おばばの壮大な夢想としごかれる太郎
◆◆◆
14才になった太郎が、いつものように野良仕事を終えて帰り道のことだったと。
のたのた歩いていると、脇の草むらで何やら鶴がぱたぱたやっていたんだと。
「亀はだめだが、鶴ならよかべ」
近寄ってみると、大きな鶴の羽根を持っている白装束の少女が罠にかかってたと。
女の子は太郎に見つかると、可憐にもまた羽根をぱたぱたさせたと。
「そんなにぱたぱたさせんでもええがな。」
「あたしは、かはいそうな鶴の化身です。助けてくれれば、いいことあります。」
どう見ても、人がただ羽根を持ってる風にしか見えないんだと。
羽根には心棒と紐が付いていたと。
「頼まれんでも助けてやるわい。ほれ、足見せろ。」
罠を外してやったら、いい匂いがするし、見たこともない白装束で、
おまけに気品があって何だかかわいいと。
「その足じゃ歩けんが、鳥なら飛べるべ」
太郎はわざと言ってみたと。
置き去りにされると思った少女のひとみに太郎はどきんとしたと。
「あたしは、かはいそうな鶴の化身です。助けてくれれば、いいことあります。」
テープレコーダーみたいな子だなと思いながら、
空気を読んで、仕方なくおんぶしたと。
鳥のように軽かったと。
ほうして太郎のおんぼろ屋に運び込んだんだと。
「何だな、こな娘」
とおばば。
「亀はだめじゃが、鶴はええじゃろ」
「あほう。何言ってんだか」
「じゃから、道歩いてたら鶴が・・」
「太郎の言ってることはさっぱりわからん」
「ええい、俺の言うこと聞かんかい」
ふたりは、つかみあいになりそうになったとよ。
「あ、あの、太郎さま、あたし人間でもいいです」
<太郎さま>なんて言葉を聞いて、二人とも目をぱちくりしたんだと。
「いや、鶴の方が、おばばには・・」
と、太郎が言いかけると、おばばが急に言い寄り
「鶴かもしれんのか」
と声をひそめた。
太郎は、人に違いないと思っているが、この後の展開が面白そうなので、
「んだ。これが証拠だて」
と棒と紐付きの羽根を見せたと。
ばあさんのどんより眼(まなこ)が14年振りにキランと光ったと。
「隣の豊田んちから自動織機(じどうしょっき)を借りて奥の間に入れれ」
と言ったと。
「おばばは、ああ見えてもノア爺さんとか豊田んちとか、
普段から近所付き合いがええんじゃなあ。」
と太郎は感心しながら、隣家の戸を叩いたと。
「おう、瀬中(せなか)んちのせがれか。何が用がぁ?。」
「おばばが、おじさんから『児童食器』を借りて来いて。」
「なにを、あの山んばに貸すものなんぞありゃせんが。」
顔を引っ込めると、思い直したようにすぐに顔を出し、言うたと。
「壊れ織機ならくれてやってもええが。」
複雑な顔をして太郎が壊れたはた織り機械を抱えて持ってきたと。
「おばば、おじさんは壊れた食器くれる言うて、
こな粗大ゴミを押し付けよってからに、ようわからん。
おばばの人脈もようわからん。やまんばとか言われたし。」
「なんじゃと。まったく、小さいころ団子盗ったくらいで、
いつまでもやまんば呼ばわりされちゃかなわね。」
「え」
「ほれ、ええから、さっさとそいつを奥の間に入れんかい。」
「こんなん入れたらおらの寝るとこない。裏の産廃の山に捨てた方が。。」
「捨ててどうする。参拝するのか。<イエイエそれはカワイソ オ〜>。」
「ばば、黄色い目でカナリヤ歌うな」
「とにかく、奥の間にそいつと娘を放り込むんじゃ。」
「その方がかわいそうな。。」
「太郎さま、あたし参ります」
「おお」
二人は口を丸くしたと。
「ほおれ、あの娘あの機械を見て喜んどったに。」
「がらくたで喜ぶわけないがに。これには何か深かぁ〜い訳があるにちがいない」
「うんにゃ、こりゃ脈あるで・・」
「ばばもあの娘も、何考えてんだか。−ああ、俺ねるとこない」
「お前は土間じゃ」
「寒そうじゃのう」
そこに爺さん帰ってきた。
「何じゃ、あの娘は。」
「太郎が帰り道で鶴に会ってな・・」
「わしゃそなこた聞いとらん」
「だから亀はだめじゃが、鶴ならめでたくて・・」
「あほう、めでたいのはお前じゃ」
「最後まで聞かんかいっ」
二人はつかみあいになりそうになったと。
「あ、あの、あたし人間でいいです。。」
「ほれ見ろ、すっかり警戒されちもうたで」
「ばばは初めから警戒されとる」
「あほぬかすな、たろめ」
「お前たち何言うてるのかさっぱりわからん」
「太郎さまのおうちは楽しいですね」
娘が増えたようで、貧しくも楽しい夕餉を食べたんだと。
爺さんも婆さんも太郎も、そして娘も喜んだと。
囲炉裏を囲んで夜更けまで笑い声がいつまでも続いたんだと。
(続く)
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